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再び白梅院にて

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再び白梅院にて

イラスト『再び白梅院にて』とセットの小説になります。
CPは言わずと知れた瑠璃×高彬なのですが、
守弥と小萩も恋仲の設定になっています。
苦手だな~と思われる方はご注意ください。


 
荘厳な三条邸の檜皮葺にうっすらと雪が積もり、朝日が反射してきらきらと光っている。
目を覚まし体を起すと、しんと体に凍みる寒さだった。
「瑠璃さま、これをご覧下さいませ」
部屋の御格子を上げにきた小萩が、一通の文をあたしに差し出した。
どうやら守弥からの文らしい。
「なによ、小萩宛の恋文をみせてくれるの?」
守弥と小萩は会えば喧嘩ばかりしていたけれど、いつの間にか恋人同士になっていた。
「そんなんじゃございません!文の内容は高彬さまのことですわ」
守弥があたしに文を寄こすこと自体、尋常じゃないし、まして高彬のこととなれば気になるじゃないの。
むきになっている小萩にごめんごめんと謝りつつ、すばやく文に目を通した。
文の内容は高彬が風邪をこじらせてしまったこと。
高彬の母上が信奉している占い師によると、病人は動かすことも文を書くことすらまかりならぬと言い、高彬は文も書けない状態だという。
高彬はあの通りまじめな人だから、あたしが心配していないかひどく気にしているというのだ。
かなりうさん臭い占いだけれど、大方、あちらの母上が高彬かわいさにやっていることだと思うわ。
面白くないけれど、高彬は大事に看病されているだろうし、その点の心配はない。
とはいっても、妻として夫の容態は気になるわ。
文を読み進めていくと、なんと驚くべきことが書いてあった。
守弥らしく、ばか丁寧に、くだくだしく書いているのだけれど、要は高彬の見舞いに来てくれないか、ということだった。
「ちょっと小萩。守弥があたしに白梅院にお忍びで来てくれって。別にあたしは構わないけれど、高彬以上にお堅い守弥がこんなこと言うなんて信じられないわね」
平安の現代、妻が夫の実家を訪れることは一生に一度だってないのが普通なのだ。
「ええ、そうなのですわ。でも、守弥が高彬さまに対する思い入れは、普通ではないところがありますの。たまに親バカのようだと思うことがありますわ」
半ば呆れ顔で、めずらしく辛らつな口調の小萩に、あたしは思わず吹きだしてしまった。
でも、ほんとそうなのよ、守弥って。
高彬にヘンな感情でもあるんじゃないかしら。
どうやら恋人である小萩も同じ疑念を抱いているらしい。
恋人にこんな疑念を抱かせるようでは、守弥もまだまだね。
「守弥に分かったと伝えて。もちろん小萩も一緒に行くのよ。前回のお忍びと違って寒いから守弥の部屋で待っててね」
「姫さま!?」
驚きのためか、恥ずかしさのためか、小萩はさっと顔を赤らめた。
「守弥が、自分の勤め先に、女を呼ぶなんて、そのようなことは・・・」
「ダメよ。あたしの大切な女房を寒空の下、牛車の中でなんて待たせておけないわ。小萩を守弥の部屋に入れないと白梅院に行かない、と瑠璃が言っていたと守弥を脅せばいいわ。大丈夫、親バカだから承知するわよ」

夜も更けた頃、守弥が手配した牛車があたしの部屋にひっそりと横付けされた。
こうして、あたしは再び白梅院を訪れることになったのだった。




以前と同じ手はずで大江に出迎えてもらい、小萩は守弥の部屋に案内され、あたしは北面のずらりとならんだ女房部屋を通り過ぎ、高彬のいる東の対に通された。
「高彬さまはこちらでおやすみでいらっしゃいますわ」
あたしは、大江が巻き上げた御簾の隙間からすばやく身を滑らして中に入る。
御簾の内は火桶があちこちに置かれ、たっぷりとくべられた炭が赤々と燃え、ほっとする暖かさだ。
あの時は夏らしい薄衣をかけた几帳だったけれども、今回は冬らしい厚みのある練絹がかけてあり、その奥に寝所がしつらえられていた。
あたしは、衣擦れの音にも気を使いながら静かに几帳のうちに回り込むと、白い小袖姿の高彬が横になって休んでいた。
枕辺に膝をついて高彬の顔を覗き込むと、細々しい灯台の明かりを受けた頬は、ろくに食べられないのか、少し痩せた感じがする。
久しぶりに会う夫の、病でやつれた寝顔を見ていると、
「高彬―」
と思わず抱きつきたくなってしまう。
なんかやっぱり、こおいうのって照れるわね。
あたしは抱きつく代わりに、高彬の首筋にからまっているほつれた鬢をそっとなでたり、衾をかけなおしたりしてみた。
「う・・・ん」
さっきまで牛車の中にいてすっかり冷たくなったあたしの手が触れて起してしまったのか、高彬の瞼が少し、開いた。
「・・・瑠璃さん?」
「そうよ、瑠璃よ。大丈夫なの?今日はあたしが看病してあげるからね」
そっと耳元で囁くと
「夢だと、瑠璃さんがやさしく見えるな。あぁ、会いたいと思っていたから夢にでてくれたんだ」
と、ぼんやり独り言のようにつぶやいた。
ちょっとそれじゃ、日頃あたしがやさしくないみたいじゃないのさ。
むっときたけれど相手は病人。ぐっとこらえた。
「いつもやさしいわよ!ほら、寝なさいよ」
「いやだ」
高彬は、まるで駄々っ子のように言うと、突然、あたしの腕を引っ張った。
そしてなんと、あっという間にあたしを夜具の中にひきいれてしまったのだ。
「ち、ちょっと。あんた病気でしょう。だめよ、こんな・・・」
ここは右大臣家よ。
高彬は病気じゃないの。
そ、それに部屋のすみには大江も控えているのよ。
まずいんじゃないのー!!
でも高彬は病人とは思えない力でぎゅうぎゅうとあたしを抱きしめ、とても起き上がれない。
「高彬、落ち着いて。だめだったら・・・」
あたしの髪に顔をうずめる高彬の息遣いも荒く、どきどきしてしまう。
もう、高彬ったら。しょうがないわねぇ。
うふふふふ。
あたしは高彬に身を任せることにして、瞳を閉じた。
「・・・高彬?」
けれど高彬はそのままぴくりとも動かない。
どうしたのかかしら。
なんとか首だけ動かし、高彬の顔を覗き込むと、高彬は再び寝入ってしまったらしい。
でもその体は飛び上がるほど熱くて、汗ばんでいるのが衣を通しても伝わってくる。
なんだ。
いえね、期待していたわけじゃ、ないのよ。
ちょっと、焦ったじゃないの!
でも、熱で倦んだ声で「瑠璃さん・・・」とうわごとのようにつぶやいている高彬を見ていると、何も言えなくなってしまう。
「・・・大江」
「はい」
几帳の向こうで大江がつつ、と膝をすすめる音が聞こえた。
「守弥と小萩に伝えて。あたしは今日、泊まってゆくわ」
「でも、瑠璃姫さま、このことが他の者に知れましたら・・・」
「だから大江に、ばれないよう、お願いしたいのよ。大江はなかなか優秀な女房だと高彬から聞いているわ。大丈夫よね」
こういう時こそ、うそも方便。
案の定、渋っていた大江は嬉しそうな声で
「そんな・・・でも、そうですわね。なんとかやってみますわ。ええ、そのくらいなら」
「お手当て弾むわよ」
畳み掛けてやると、身を乗り出す気配がした。
「お任せくださいませ!」




格子戸の隙間から幾筋もの光が漏れてきている。
小鳥のさえずりと清らかな御川水のさらさらという音が耳にやさしく響いてあたしは目が覚めた。
もう、朝なのね。
あたしはいつの間にか眠ってしまったようだ。
体を起そうと身じろきすると、その気配で、高彬も目を覚ました。
昨夜とはうって変わってはっきりと開いた目があたしをとらえると、驚愕の表情を浮かべた。
「る、る、瑠璃さん!?」
「しっ」
あたしは慌てて高彬の口をふさいだ。
「夢じゃ、なかったのか・・・」
「小さい頃もこうやって突然、来たわよね。覚えてる?その時のあんたは、あたしのこと物の怪とか言ってたわ」
「そりゃ、貴族の姫がお忍びで来るなんてありえないことだからね。瑠璃さんなら十分ありえるけど。それにしても・・・家の者にはばれてないのかい?」
「うん。大江がうまくやってくれたから大丈夫よ」
「大江か」
「そうよ、お手当てはずんでやってちょうだい」
ふっと高彬は笑みをもらした。
笑うと頬に血の気がさしてきて、昨日よりだいぶ顔色もいいみたい。
「どう、熱は」
あたしは高彬の額に手を当ててみた。
すると、高彬がその手をとった。
「もう、すっかり大丈夫みたいだ。瑠璃さんが看病してくれたおかげだね。夢の中の瑠璃さんはずいぶんやさしかったなぁ」
「だから夢じゃないって!・・・高彬こそ、熱があるのにあんなことして・・・さ」
「え?あんなことって?」
高彬はきょとんとしている。
どうやら熱にうかされていて、覚えていないみたい。
「覚えてないならいいのよ。どうせ熱があったんだし」
「なんだよ、気になるな」
「いいって」
「あやしいな、寝ている僕になにしたのさ」
あたしの顔を覗き込むようにして高彬はにこにこ笑っている。
なにかしようとしたのはあんだじゃないの!と言おうとしたけれど、口をつぐんだ。
恥ずかしくって言えないわよ。
「あれ、瑠璃さん、顔が赤いよ。僕の風邪がうつったかな?」
「だ、大丈夫よ。さ、あたしは帰るわ」
「いつもと逆だね、僕たち」
「あら、そうね。えっと、なごり惜しさに胸つまり、このまま朝までいてはあたしの名はいいけれど高彬の名が惜しまれて・・・」
あたしが殿方のこういう時のきまり文句を口ずさむと二人で目交ぜして笑ってしまった。
「なんだかこのまま瑠璃さんを帰したくないな。瑠璃さんもそうなの?」
そう言うなり、ぐいっとあたしの手をつかんで引き寄せる。
あたしもあら、とよろめくふりをしてそのまま夜具の上に倒れこんだ。
うーん、やっぱりこういう情緒的な展開になるのかしらね。
うふふふふ。
そのとき、ほとほと、と遠慮がちに格子を叩く音がした。
「・・・起きてるよ。大江か?」
いいところを邪魔されて、男としてくやしいのか、ぶすっとして返事をする。
「いえ、守弥にございます、若君。そろそろ瑠璃姫にお帰りいだかかないと。家の者も起きだして参ります」
「家のものをごまかすことくらい、守弥ならできるだろ。もう少ししたら来てくれよ」
「できません。それにもし万が一に見つかるようなことがあれば、お困りになるのは瑠璃姫です」
高彬に一歩もひかない口調だ。
「瑠璃姫さま。小萩もすでに車で姫さまをお待ちしております。さ、早くお帰りを」
「小萩?なんで小萩が・・・」
朴念仁とはいえ、さすがに高彬も気がついたようだった。
「ふーん、そうか。小萩も来ていたんだ。ときに守弥。昨夜、小萩はどこにいたのかい?」
「えっ!」
さっきまでのキビキビした口調はどこにいってしまったのか、そう言ったきり絶句している。
守弥の姿はみえないけれど、きっとみっともないくらいに動揺しているのだろうな。
あたしは二人のやり取りが可笑しくって笑ってしまった。
「あんまり守弥をいじめては、だめよ、高彬。あたしここに呼んでくれた黒幕は、守弥なんだから」
「そうだったのか・・・。じゃあ、守弥には感謝しないといけないね」
「いえ・・・」
バツの悪そうな、困ったような守弥の声がした。
あたしは乱れた胸元を整えると
「じゃ、帰るわ。高彬、お大事にね」
「うん、ありがとう瑠璃さん」
「いいのよ」
と笑顔で返し、体を起こそうとしたあたしに高彬は耳元で囁いた。
「続きは三条邸で。また、今夜・・・」
ま。
高彬ったら。
「病み上がりのくせに!」
と言い返しつつも、あたしは顔が笑ってしまうのを抑えることができなかった。

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