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ジャパネスクをもう一度 ~其の壱~

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ジャパネスクをもう一度 ~其の壱~

~ 四年後のふたり ~
 
  ※帥の宮事件から4年後の瑠璃と高彬
  ※ジャパネスクを最終巻までご覧になっていない方は、
 ネタバレを含みますのでご注意ください。


 暦の上では秋だけれど、
 京の都はまだまだ暑い日がつづく。
 あたしは開け放した妻戸から入ってくる熱気の残るゆるやかな風を感じながら、広廂でうとうととしていた。
「あー、暑くてかったるいわ」
 そういえば結婚前、高彬と兵部卿宮の二の姫との間を誤解して宮邸に乗り込んだ時もこんな気だるい日だったっけ。
 あたしと高彬は、まぁ、いろいろあったけど3年前、晴れて結婚した。
 結婚前、あたしは好奇心旺盛が禍いして都中を揺るがす大事件に関って、心も体も大怪我を負った。
 立ち直れたのはほんと、あたしの周りの人達のお陰だと思う。
 結婚後もまた事件に首をつっこんで夫となった高彬まで巻き込んでしまった。
 そのせいでお役目大事のお堅い高彬は焼けた大木の下敷きになって、生死をさまよう大やけどを負ったけど、今はすっかりよくなって今までどおりの生活を送っている。
 ただ、すっかりよくなったとはいえど、火傷のあとはまだ体のあちこちに残っていて、それを見るたびにあたしは高彬に対してほんと申し訳なかったという気持ちと愛しい気持ちでいっぱいになる。
 だからそれ以来、自分で言うのもなんだけどあたしってばすごおく落ち着いちゃって、今はすっかり人妻の瑠璃よ・・・のはずなんだけど
「まぁ瑠璃様!」
 突然、頭上からあたしの腹心の女房である小萩の声がした。
「内大臣家の姫さま、いえ、もう北の方ともあろうお方がそのような格好で妻戸を開け放して・・・!」
 小萩は急いで妻戸を閉める。
 確かにあたしの格好は暑いからということで、打ち袴に肌が透けるくらいの袿をはおっただけの格好で、高彬がみたらお説教されるようないでたちである。
「だって暑いじゃないの。それに高彬だってまだ来る時間じゃないでしょ」
 あたしは袿を胸元でかきあわせながらしぶしぶと体を起こした。
「いいえ瑠璃さま、高彬様がお越しですわ。じきにこちらにおいでになります。さ、早くお着替え遊ばして・・・!」
 小萩はあたしをせきたて、周りにいる女房にテキパキと指示を出し室内をととのえはじめる。
 今や小萩もすっかり古参女房の貫禄である。
 そっか、さっきから東門の辺りがざわついているなーと思っていたけど、あれは高彬だったんだ。
 でも高彬がこんな時間にあたしのところに来られるのはめったにない。
 特に最近は秋に行われる徐目が迫っていることもあって仕事の整理やなんかで大忙しなのである。
 それでも高彬はあたしに会いに連夜この三条邸にきてくれるのだけれども。
 毎日遅いからあたしの生活時間もすっかり夜型よ。
 来れば、まぁ、その、あたしたちもまだ新婚といえば新婚だから仲良くしちゃったりするし、ますます日中うとうとすることが多くなるわけだけど。
 でも今日はまだ申の刻、夕方近くといってもまだ十分に外は明るい。
「ねぇ、小萩」
「どうなさいました?瑠璃さま」
 新参女房に次々と指示を出す小萩をあたしはぼんやりと眺めながら言った。
「こんな時刻に高彬があたしのとこくるなんてめずらしいわよね。なにかあったのかしら」
 小萩も不思議に思ったのか、小首をかしげる。
「確かにそうですわね、こちらの準備ももう整いますから、わたくし、寝殿に行って高彬さまの様子を窺って参ります。高彬さまは瑠璃さまに会いにいらしてるのですもの、早くこちらにお渡りになれるようにしてきますわ」
 大抵、高彬は三条邸にくると父さまのいる寝殿にまずは通され、大切な婿君として下にも置かぬもてなしをうける。
 特に母上は婿君が夜離れしないようにするのも女親の努めと言って高彬の接待にはりきっているので、高彬は寝殿に足止めされてしまうパターンがすごく多い。
 だから高彬が来たといってもすぐにあたしのところに来るわけではないのだ。
「そうねぇ、高彬もあたしに内大臣さまも北の方さまも僕にそんなに気を使って下さらなくてもいいのにって言ってたから、小萩、頼むわね」
「おまかせください!お付の女房の腕の見せ所ですわ」
 小萩は胸を張って答えると、一礼して部屋をでていった。
 高彬は家庭に仕事のことを持ち込むのはあまりよしとしない人だから宮廷で起こっている問題をあたしに話すことはほとんどない。
 宮廷で起こる問題は鷹男の帝にも関わることだろうから、なにかといえば恐れ多くもが口癖のお堅い高彬が口にすることはないのだろうし、あたしに話せばまた何か問題を起こすとでも思っているのかもしれないけれど。
「姫さま、そろそろお着替え遊ばしませぬと高彬様がいらっしゃいます」
 部屋を片付けていた女房の一人、小萩の妹分の早苗が塗り箱をもってきた。
 塗り箱の中には秋の色目である黄色と萌黄の女郎花の襲ねが入っている。
 秋用のお衣装としてしつらえたものだ。
「衣ずれの音もかすかに聞こえます。ささ、こちらへ」
「えっ、でもさっき小萩が出てってまだ半刻もたってないのよ。いくらなんだってこんな早く来ないわよ。もうちょっと寝殿に足止めくらってるはずだわ」
「そうでしょうか。確かに聞こえたのですけど」
 あたしと早苗は耳をすました。
 本当だ、確かに衣ずれの音が近づいて来るようだ。
 こういうとき馴れている女房にはかなわない。
 あたしは早苗に促されて慌てて几帳をめぐらしたかげに隠れた。
「こんな格好、高彬に見られたらまたお説教ね」
 早苗や周りの女房たちがくすくすと笑う。
 その時、静かに妻戸を叩く音がして先導の女房の声が聞こえた。
「高彬さま、いらっしゃいました」
 女房たちが一斉に頭を下げる音が聞こえた。高彬が来たのだ。
「瑠璃さんはどちらかな?」
 答えの代わりにくすくすという女房たちの笑い声が聞こえる。
 ややあって女房の一人が、御几帳の影に隠れていらっしゃいますわ、といたずらっぽく答えた。
 あたしの周りには若い女房が多く、女主人があたしのせいかいたずら好きな活発な女房が多い。
 あたしの着替えを高彬に見せてその反応を楽しもうとしてるのだ。
 げっ!あたしまだ着替えてないよー!!
 その時カタンと几帳が動き、高彬が現れた。
 そして薄衣のあたしの格好をみた瞬間、見る間に顔が赤く染まってゆく。
「るっ瑠璃さん!!もう、なんて格好してるんだよ。それでなくても瑠璃さんは妻戸を開け放したり、端近におりたりするんだから・・・。誰かに見られたらどうするの!!」
 いっそう周りの女房たちのくすくす笑いが高まった。
 まったく女主人のあたしをだしに使って楽しもうなんて・・・
 これだから最近の若い女房は!
 高彬に赤くなられるとあたしまで赤くなってくる。
 高彬が来るのはほとんど夜だから明るいところで薄衣の格好を見られるのは妙に気恥ずかしい。
 あたしは薄衣を胸元にかき集め、うつむいた。
 高彬の後ろに控えていた小萩はあたしをみると
「瑠璃さま!まだ着替えていらっしゃらなかったのですか!まぁ、高彬様申し訳ございません。お付の女房のわたくしがしっかりとしないばかりに・・・。それにしてもあなたたちも笑っている場合ではありません!」
 と、高彬に謝り、周りの女房たちを一喝した。
 女房たちは小萩に一喝されてしんと静まり返る。
 高彬はそれをみて逆に気を使って
「いや、小萩のせいじゃないよ。じゃあ僕は待ってるから瑠璃さん早く着替えて」
 と言うとまだ赤い顔で几帳のそとにでると女房の用意したお褥の上に腰を下ろした。
 小萩はぶつぶつと小言を言いながら、早苗や他の女房とあたしの髪を梳いたり化粧を直させ、女郎花の襲ねを着せた。
「高彬、またせてごめんね」
 今度はきちんとした格好で高彬の目の前に座った。
「秋らしい装いだね、瑠璃さん。こうしてみると北の方らしくみえるんだけどなぁ。さっきは驚いちゃったよ、瑠璃さんのとこの女房たちにいっぱいくわされたな」
 笑いながらまわりの女房にも話かけるように言う。
「女主人に似て、お付の女房もいたずら好きだって言いたいんでしょう」
 あたしは扇で高彬のひざを軽く叩いた。
「小萩も大変だね。瑠璃さんだけも大変だろうに、女房の教育係もやって。立派な古参女房だよね」
「まぁ、高彬さまに分かっていただけただけで小萩は幸せでございます。いっそのこと高彬さま付きの女房だったらどんなに楽かとも思いますわ」
「ちょっと小萩!それはだめよ!!」
 あたしが慌てると小萩が笑い、高彬も笑った。
 あたしもつられて笑い、そして周りの女房たちも笑う。
 笑い声が寝殿まで届くと思われるくらいの華やぎであたしの部屋はいっぱいになった。
 あたしと高彬はいつもこんな調子でうまくいっている。
 結婚当初は高彬も緊張していて女房たちとこんな軽口をたたかなかったけど結婚して3年もたつと、さすがにだいぶ慣れて、心からあたしの部屋でゆったりとくつろいでいるみたい。
「いや、こちらに来るといつも明るいから疲れも吹き飛ぶよ」
 高彬は用意された脇息にゆったりともたれた。
「ところで高彬、今日はこんなに早くどおしたのよ。めずらしいじゃないの」
「うん、今日は仕事がめずらしく早く片付いてね。 右大臣家に寄って久しぶりに母上に顔でも見せてからこちらに伺おうと思ったのだけど、宮廷でいろいろあって疲れていたから瑠璃さんのところにまっすぐきてしまった。だから小萩が僕を迎えに寝殿に来てくれたのは、内大臣さまや北の方さまには悪いけど助かったよ」
「ですぎた真似と思いましたが、それではようございましたわ」
 後輩女房たちの目の前で褒められて小萩は上機嫌だ。
 あたしもまっすぐに瑠璃さんのところに・・・
 のところで思わず顔がにんまりしてしまう。
 でもあたしは宮廷でいろいろあってという、高彬の言葉にひっかかった。
 さっきは恥ずかしくてまともに高彬の顔をみていなかったけれど、よくみると目の下うっすらとくまもあるし、本当にだいぶ疲れているようだ。
「ねぇ、さっきは気づかなかったけど、あんたほんとに疲れてるわよ。宮廷で何かあったの?鷹男の帝のこと?」
「瑠璃さん、そのお名前はちょっと・・・」
 高彬がコホンと咳払いしたのであたしは小萩に目配せして人払いさせた。
 女房たちは、御前失礼致します、と言って衣ずれの音も涼やかに部屋を出ていったが、渡殿のあたりで「早くお二人になりたいのねー」「お盛んよね」ときゃっきゃと騒いでいるのがまる聞こえである。
 高彬とあたしは目を見合わせると二人して真っ赤になってうつむいてしまった。
 小萩は最近の若い女房は!と憤慨している。
 耳まで赤くなっているあたしたちに申し訳ございませんとふかぶかと一礼し、女房たちを注意するため、衣ずれの音も勇ましく新参女房たちを追いかけていった。
「小萩もすっかり古参女房の貫禄だね」
「そうね、最近結婚や出産でやめる女房が重なってさ。父さまが新しい女房を大々的に募集したから新参女房が多いのよ。小萩は面倒見がいいから新参女房に頼りにされてるみたいだし、このところますます貫禄がついてきたわよね」
「じゃあ小萩が大変なのは右大臣家のせいもあるかな。そのやめた女房の相手は右大臣家のぼくのお付の家人がけっこう多いって聞くよ。最近僕がこちらに伺うと言うとお供を志願する者が多くてね、お目当ての女房がこちらにいるんじゃないかな」
「へぇ、小萩も案外右大臣家の家人の誰かと仲良しだったりして」
 あたしたちは顔をみあわせて笑った。
「ねぇ、高彬、やっぱりあんた疲れてるわよ。ちょっとやつれたんじゃない?」
 あたしが高彬の顔を両手でそっと挟んで覗き込むと、高彬はあたしをやさしく抱き寄せた。
「やっぱり瑠璃さんのところが一番落ち着くな。瑠璃さんの元気すぎるところには閉口するところもあるけど、女主人が活発だからこちらはいつ来ても明るい雰囲気だし、宮廷での疲れも吹き飛ぶよ」
 元気すぎるは余計よっっ!と思ったけれど、なんとなくいい雰囲気なのであたしはだまって高彬に身を預けていた。
 少し開けてある半蔀から流れてくる風もひんやりして心地よく、いつの間にかあたりは夕闇に包まれていた。
 小萩も気をきかせてか新参女房を注意しに出て行ったきり戻ってこない。
「実はね、瑠璃さん。僕の二番目の姉上が今上帝の女御に上がっているだろう」
 高彬はあたしを抱き寄せたままゆっくりと話し始めた。
「承香殿の女御さまよね。二年前に鷹男の帝の皇子をお生みになって、今をときめく女御さまじゃないの。皇子さまも生まれてすぐに東宮に御立ちになったし」
 鷹男が東宮時代、廃太子に追い込もうという陰謀があったのだけど、いろんな行きがかりがあって鷹男とあたしでその陰謀を阻止した縁で、鷹男は帝になった今も時々あたしに高彬がみたら卒倒しそうな歌や文を寄こしてくる。
「もしかして今東宮さまを廃太子しようとする陰謀・・・とか?」
 高彬は頭を横に振った。
「違うんだ。東宮さまは右大臣家でも万が一のことがないよう、厳重な警護をつけて大切にお守りしているし、御年二歳におなり遊ばすが、お健やかでいらっしゃるよ」
 確かに鷹男からの文には陰謀を匂わすようなことは微塵も書いていなかった。
「じゃあ、一体なにが・・・」
 でも最近文の回数もめっきり減ってきているのよねー。
 あたしには高彬というれっきとした夫がいるけれど、それはそれでなんかさみしいなーと思っていたのよ。
 本気でどうこうというのではなくて、なんか人妻でもいけないときめきというか、刺激がほしいじゃないの、と邪まなことを考えていると高彬は声をひそめた。
「実はこのことはあんまり表沙汰にはしていなかったんだけど、承香殿さまは東宮をお生み参らせた後、産後の肥立ちがあまりよくなくて、病がちであらせられてね。それでも東宮の母である自分が床にふせってばかりでは東宮の御ためによくないと宮中の大きな行事には無理をして参加なさっていたんだ。そうした御無理がたたったんだろうな、最近は床から起き上がれないくらい弱ってしまって・・・」
「だから最近文もこないんだ・・・」
「え?文・・・?」
 つい、鷹男からの文のことをつぶやいてしまったあたしに高彬は反応したのであたしは慌てて話を進めた。
「東宮さまは御歳二歳でいらっしゃるのでしょう?まだまだ母親が必要な御歳じゃないの」
「そうなんだ。帝におかれても僕がお見申しあげるかぎりたいそうご心痛であられるんだ。御政務が終わるとすぐに女御のお見舞いに承香殿に向かわれているよ」
 高彬は悲痛な面持ちで、心底鷹男の帝や姉上の承香殿さま、そして東宮さまの心配をなさっているようだった。
 そうか、高彬が疲れているように見えたのは仕事も忙しいけれど、承香殿さまのこともあったのか・・・。
「でも高彬、あんたんちお金持ちだし、承香殿さま女御という高貴な身分であらせられるんだから、高価なくすりとか有名なお医師とかじゃんじゃん集めてさ。そしたら女御さまもきっと元気になるわよ!」
 あたしは高彬を元気づけるつもりで高彬の手とぎゅっと握り、明るく言った。
「そうだね。瑠璃さんの言うとおりかもしれない。恐れ多くも帝御自ら法珠寺の高僧、観照どのにご祈祷をご依頼されているしね」
 高彬は気を取り直したように言うと、じぃっとあたしを見た。
「瑠璃さんは、大丈夫だよね」
「どおいうことよ」
「いや、さ。僕ら結婚して三年がたつじゃないか。僕としてはそろそろ僕たちの間にもおややが出来てもいいかなぁ、なんて漠然とだけど考えていたんだ。周りからもいろいろ言われるしね。でも、最近は瑠璃さんをあんな危険な目にあわせるくらいなら、おややがいなくたって瑠璃さんがいてくれれば十分だって思うんだ」
 あたしも最近、おややはまだなのかといった類のことを周りからよく言われることがちょっとずつきにかかっていた。
 こういうものは天からの授かりものだし、あせってもどうしようもないことだからとやんわり受け流してきたけれど、中にはあたしか高彬に欠陥があるんじゃないかと言うヤツもいる。まったく失礼しちゃうわよ!!
「あたしはこのとおりピンピンしてるし、大丈夫よ。それより高彬が心配。あんたは大変な事でもひとりで背負い込もうというとこがあるから」
「ありがとう、瑠璃さん」
 高彬はあたしを強く抱きしめると、やさしく接吻したのだった。

                               其の弐へつづく・・・

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