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ジャパネスクをもう一度 ~其の三~

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ジャパネスクをもう一度 ~其の三~

~ 初恋の君 ~

  ※帥の宮事件から4年後の瑠璃と高彬
  ※ジャパネスクを最終巻までご覧になっていない方は、
 ネタバレを含みますのでご注意ください。


 
小さくなってゆく高彬の後姿を見送ると、あたしは急ぎ席をしつらえるよう、小萩に言った。
煌姫は由良姫をせきたてるように
「さぁ、由良姫。瑠璃姫がこうおっしゃっているのですからなにも遠慮はありませんわ。利用できるものは利用なさいませ!」
と、用意された席にさっさと腰を下ろした。
さすが宮姫だけあって身のこなしは優雅なんだけど、仮にも宮姫が言う言葉かなー。
煌姫とも久しぶりに会うのだけど、多少興奮しているせいか頬が上気して目も輝いていきいきしている。
くやしいけれど、ほんと美人、よ。
この姫、なにかトラブルがあるときれいに見えるのよね。
男に生まれれば出世するタイプよ、絶対。
あたしは由良姫の手を取ってとにかく座るよう、促した。
どっと疲れがでたのだろう、お褥の上にぺたんと腰を下ろした。
一方、煌姫は我が家のように堂々と座り、小萩が気を利かせてもってきた白湯を飲み干している。
「煌姫、あんたも相変わらずね。元気そうでなによりよ。ところで煌姫はこれからどうするの?」
「もちろん、由良姫と一緒ですわ。高彬さまにお願いされたのですもの」
「まぁ、そのほうがいいかもね」
小萩から渡された白湯をゆっくりと口に含んでいる由良姫を見ながらあたしはうなずいた。
超リアリスト煌姫と由良姫は意外とうまが合うのだ。
あたしもずっと一緒にいるというわけにもいかないし、由良姫もそのほうが気が紛れるだろう。
もうこんな時間だし、客が客だけに後輩女房を起こしてくるわけにもいかず、小萩はひとりであたふたと寝所の準備をしていたが、きちんとした寝室の用意なんて整わなくて、その夜は3人で夜具をくつけて寝ることになった。
煌姫と違って由良姫は初めずいぶん恐縮していたけれど、夜具に入るとひと心地ついてほっとしたのかやっと笑顔をみせた。
煌姫なんてもう、すーすーと寝息をてている。
さすがというか、神経が図太いというか。
「わたくしにはお兄様もお姉様もたくさんおりますけど、こんな風に寝るのは初めて。誰かが隣にいるのってこんなに安心するなんて思いませんでしたわ」
煌姫を起こさないように由良姫は小声で話す。
「あらそうなの?あたし、子供のころはよく高彬と融と昼寝したもんよ。みんな寝相が悪くてさ。高彬なんてあたしや融に夜具を取られてよく風邪ひいてたっけ」
「そうでしたの。あの高彬のお兄様が・・・」
由良姫はくすくすと笑った。
ふつう、大貴族ともなると親、兄弟それぞれ別の対の屋に住んでいて会うときも御簾ごしがせいぜいである。
いつぞや高彬も兄上と遊んでもらった記憶がないって言っていたし、由良姫も兄弟たちと遊んだことなんてほとんどなかったんだろうということは察しがつく。
兄弟の情なんてものはほとんどないだろうから姉姫が亡くなったら身代わりに妹姫を入内なんて話がでてくるのよ。
「ねぇ、由良姫。言いたくなければいいけど由良姫はこれからどうしたいの?別にうちはいつまでいてもらっても構わないのよ。でも、人間これからのことも考えなくちゃ。あたしの言うこと、分かるわよね」
由良姫はこくんと頷いた。
「わたくしにとって帥の宮さまは今でも大切な方には変わりありませんわ。あの頃のわたくしは今よりもっと世間知らずでしたし、あれが本当の愛だったのか分かりません。でも、あの気持ちはとても大切なもので、今も結婚なんてとても考えられないのですわ。
わたくしが、おかしいのでしょうか・・・?」
あたしは由良姫の言うことがよく分かるわ。
「女にとって初恋のは特別な存在よ。由良姫はその気持ちを大切にしたいだけなのに、周りがうるさいのね」
「そんなふうにおっしゃって下さったのは瑠璃ねぇさまが初めて・・・!みな、わたくしの気持ちなんてどうでもいいのですわ。今日も承香殿の姉上様が亡くなったばかりだというのに入内の話などされて。わたくし、そのような人達の言いなりになるのだけは絶対に嫌!」
小声だけど由良姫はきっぱりと言い切った。
あたしは帥の宮事件の時、高彬を止めるため、女の命ともいえる黒髪をためらいもなくばっさりと切った由良姫を思い出した。
由良姫の瞳や口元は高彬そっくりだけれど、性格はどうやら似ていないらしい。
きっと義姉に似たんだよ、と冗談めいて高彬はあたしに言ったことがあるけれど、本当にそうかもしれない。
堅物の兄よりも由良姫はあたしと煌姫の方が心を開くと考えたのだろう。
「ここに来たからにはもう大丈夫よ。あたしも煌姫も由良姫の味方なんだから。今日はもう遅いから、休んだほうがいいわ。面倒なことは明日考えればいいわよ」
由良姫は、ほっとした顔になった。
「瑠璃姉さまのところにきてよかった・・・。高彬のお兄さまは幸せ者ですわ、瑠璃姉さまと結婚できて。瑠璃姉さまと高彬のお兄さまはお互い、初恋のお相手なのでしょう?」
初恋・・・ねぇ。
「まぁ、そんなとこかしらね。高彬とあたしは筒井筒の仲だし。でもあたしの初恋は高彬じゃない殿方なのよ。
初恋は結ばれないというけど、あながち嘘でもないと思うわ」
もの問いたげな由良姫を横目に、あたしはちょっと笑って「おやすみ」と夜具を被った。

                            其の四 へつづく・・・

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